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2020.05.12 TUE

「当時、AWSは大手に勝つための切り札だった」専業SIの歴史で振り返る2010年代のクラウド、次の10年の技術

馬場 勇樹

WRITTEN BY 馬場 勇樹

※本記事はITmediaエンタープライズより許諾を得て掲載しています
転載元:ITmediaエンタープライズ
2020年4月15日掲載記事より転載

Amazon Web Services(AWS)が日本に上陸する前からAWSのシステムインテグレーションで注目を集めてきたアイレット。常に次のニーズを探り続ける同社が今狙うのは何か。ヒントは 「スピード感」と「社会インフラ」にある。

国内でAWSのインテグレーターとして必ず名前が挙がるのがアイレットだ。同社が運営する「cloudpack」は、AWSの幅広いプロダクトを導入・設計から運用保守まで、フルマネージド型のサービスで提供する。

AWSのパートナーは世界で1万社を超える。その中でAWSパートナーネットワーク(APN)プレミアコンサルティングパートナーは世界で115社だけ。そしてアイレットは日本に9社しかないAPNプレミアコンサルティングパートナーの1社だ。アイレット創業者であり、2020年4月1日付で代表取締役会長に就任した齋藤将平氏は、「今日われわれがあるのは、失敗を繰り返しながらも新しいことにチャレンジしてきた結果」と語る。

経営に当たっては「常に“未来創造”を意識している」と齋藤氏は語る。10年後のIT業界や自社の姿を想像し、そこで発展していくためには今どういう手を打つべきかを考えるのだという。10年ほど前、AWSに出会ったとき、“業界はAWSに淘汰(とうた)され、全ての顧客がクラウドを使っていく”と予想した。

創業は2003年。2000年前後に起こった「ITバブル崩壊」の傷も少し癒え、Webアプリケーションなどのシステム開発が増加に転じたころだった。齋藤氏が所属していた会社は大手の孫請けぐらいの立ち位置で開発を請け負っていたが、「実際に作っているのは自分。直接顧客と対話した方がスピードアップ、コストダウンにつながる」と独立したのがアイレットの始まりだ。

           [アイレット 会長 齋藤将平氏]

日本進出前のAWSに目を付け投資を集中

仕事を自分の会社で完結させたいと、自らデータセンターでサーバを借り、開発・運用をワンストップサービスで提供した。そうした中でAWSに出会う。2009年といえば、AWSは黎明(れいめい)期で、まだ米国でしかサービスを展開していなかった。コンピュータリソースをインターネット経由で使うパブリッククラウドという概念が芽生え始めたばかりのタイミングだ。齋藤氏はこの段階で「AWSを使えば“大手”に勝てる」と直感したという。

「大手システムインテグレーターはまだオンプレミス全盛で、物理サーバを調達するところから始めるのが常識。われわれがAWSを徹底的に使い込めば大手システムインテグレーターと対抗できる。その結果、業務拡大が実現して世界が広がると思いました」(齋藤氏)

齋藤氏は、立ち上がったばかりでまだカントリーマネジャーが1人しかいないAWS日本法人を訪ねて、“いいサービスだから積極的に使っていきたい”とアピール。翌2010年に「cloudpack(クラウドパック)」を立ち上げる。そして、2011年にAWSソリューションプロバイダー、2012年にAPNアドバンスドコンサルティングパートナー、2013年にAPNプレミアコンサルティングパートナー認定を取得する。この認定は構築実績、資格者数、教育への貢献などAWS独自の認定基準があり、大手システムインテグレーターでもなかなか取得できない。いち早く参入して投資を集中し、実績を積んだことで「AWSといえばcloudpack」といわれるまでのブランドを築くに至った。

そこから約10年、AWSは官公庁の調達で名が挙がることも今ではまれではなく、IT基盤の選択肢の一つとしての地位を築く。cloudpackもAWSのニーズ拡大とともに顧客を増やし続けている。

常に意識しているのは“未来創造”

アイレットは2017年にKDDIの傘下に入った。独立系のクラウドインテグレーターとして一定の地位を築いていたが「これからは“掛け算”によるビジネス開発が必要」と考えたからだった。

「もしかしたら上場という選択肢もあったかもしれません。しかし、自分が世界を変えるというよりは、時代に合わせて変化し続け、結果として、より大きなバリューを発揮する方が重要だと考えました」(齋藤氏)

より大きなバリューとは何か。齋藤氏はこれからの5G普及やIoT利用の拡大を商機とみる。

「クラウドに限界はありません。しかし、ここからさらに顧客を広げていこうとすると何らかのフックが必要。われわれはそれをIoTだと考えました。クラウドとIoTは好相性で、通信事業者と組むことでその世界にリーチしやすくなります。KDDIはシステムインテグレーターという側面もあれば、B2Cビジネスを手掛け、コンシューマービジネスのビジョンも持っています。大会社でもあり、ベンチャーでもある彼らと一緒になることでその両方が手に入ります」(齋藤氏)

クラウドインテグレーターとしてはKDDI連合として米国のマネージドクラウドコンピューティング企業Rackspaceとの協業を決めた(2019年)のも、この先のグローバル展開を考えた「掛け算」による未来創造の一つの形だ。今後は、彼らの事業スピードや販売モデル、企業文化など、その長所を貪欲に吸収していくという。

顧客の姿から独自のサービスを開発

とんとん拍子で拡大を続けているように見えるが、「考えて進まないことよりも、まず動くこと」をモットーとするため、時には市場でニーズが顕在化するよりも早くサービスを提供してしまい、顧客が理解できないケースも多いと齋藤氏は笑う。

AWSへの移行を丸ごと支援する「migrationpack(マイグレーションパック)」は、ここにきて時代がようやく追い付いてきたcloudpackサービスの一つだ。今でこそ、クラウドへの「リフト&シフト」は多くの企業が次のシステム更改のテーマとするようになってきたが、サービスリリース当時はまだまだニッチなものだったという。          [migrationpackのサービスイメージ]

migrationpackは、AWS移行を実現するために必要なサービスを1つのパッケージにしたもの。具体的には、「対象システムのアセスメント」「要件定義・移行設計・AWSシステム設計・運用設計」「AWSでの環境構築」「AWSへの移行作業・テスト」「AWS環境の運用保守」「AWS移行後にハードウェア買い取り」が含まれる。

キーポイントは「AWS移行後にハードウェア買い取り」だ。移行後、並行稼働により新システムの安定稼働を確認したら、旧システムのサーバを同社が買い取って代わりに処分する。「もともとは移行後のサーバ処分に困っていた顧客の姿を見て思い付いた」(齋藤氏)といい、そのためにわざわざ古物商免許を取得した。自ら仕事を増やしているようなものだが、「面倒くさいこと、大変なことほど、顧客満足度向上につながる仕事」と齋藤氏は語る。

個人情報管理の国際規格「ISO/IEC 27701」を取得

注力という点では、同社は強迫観念に取りつかれたかのようにセキュリティ対策に取り組んでいる。その理由を齋藤氏より引き継ぎ、代表取締役社長に就任した岩永充正氏は次のように語る。

「成長したといってもわれわれはまだ500人規模の小さな会社で、顧客となる大企業にしてみると“ほんとうに大丈夫なのか”と不安になるかもしれません。小さな会社でもしっかりやっていれば認めてもらえるという思いで創業当初から力を入れているのがこの分野です。トレンドマイクロとの協業に始まって、ISMS、プライバシーマーク、PCI DSS、SOC2などの取得に加え、2020年3月には個人情報管理の国際規格であるISO/IEC 27701について、国際的なISO認証機関『EY CertifyPoint』の審査を通じていち早く取得しました」

           [アイレット 社長 岩永充正氏]

この規格と同時に、クラウドにおける個人識別情報保護認証であるISO/IEC27018も取得している。どちらもゼロから取り組むとなかなか壁が高いようだが、同社においてはこれまでのセキュリティ認証の蓄積が功を奏し、今回の快挙達成となった。

今後はAWSブロックチェーンサービスを使ったインテグレーションにも注力

追い風は吹いている、と岩永氏は語る。その一つが日本政府の推進する“クラウド・バイ・デフォルト原則”だ。政府が情報システムの構築などを進める際にクラウドの活用を第一として考えるという調達の指針だ。

「実際、KDDIグループになったことを契機に、当社は官公庁からのアプローチを受け始めています。KDDIはまた、5Gや、XRで総称される仮想現実、拡張現実プロジェクト、ドローンなどの領域に取り組んでおり、そこで求められる開発力にしっかり応えることができれば、さらに認知度を上げられると期待しています」(岩永氏)

AWSでの注目領域はブロックチェーンだ。日本リージョンでもブロックチェーンサービスが始まり、これが今後、さらなる差別化ポイントの一つになると見ているという。AWSの未来を信じている同社は、どんどん進化を遂げながらAWS上に一番使いやすい形で用意されるブロックチェーン技術をSIやクラウドで積極的に活用していく。

「これから1000人、2000人規模に成長していっても、われわれはただのシステムインテグレーターにはなりません。ベンチャー精神を持ち続け、“大手”と戦って、日本の産業を変えていくというぐらいの気概で欧米のベンダーやインテグレーターとも互角に挑んでいきます。カギはスピード感。スピード、スピード、スピードで挑戦し続けます」

齋藤氏はさらなる未来創造に向けた決意をこのように語っていた。

次の10年で起こるパラダイムシフトを間近に

岩永氏が社長に就任した2020年4月1日、アイレットはオンラインで新入社員の入社式を実施した。新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて東京都がテレワークを呼びかける中でのこともあり、新入社員も全員自宅などからWeb会議ツールで参加した。

入社式で岩永氏は、2020年をテクノロジートレンドの転換期だとして、これから起こるパラダイムシフトの動きを機敏に捉えて共に成長したい、と新入社員を激励した。

「アイレットは最新テクノロジーを追いかけ続けてきた会社。5G通信が始まった今、KDDIグループとして技術革新の波を感じられる恵まれた場にいることを感じてほしい」

[一部の社員を除き、新入社員や役員など参加者は全員、自宅などからリモートでWeb会議ツールを介して入社式に参加した。岩永氏が新入社員にメッセージを送った後、新入社員それぞれがオンラインで「決意表明」を披露した]