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2018.01.23 TUE

サーバーレス・アーキテクチャで進化を遂げた『MBS動画イズム』を取り巻く環境

篠田 俊之

WRITTEN BY 篠田 俊之

2016年12月、『サーバーレス・アーキテクチャ』という言葉がIT業界に定着しきっていない時に、毎日放送様は『MBS動画イズム444』という定額制有料動画配信サービスのインフラ環境に『サーバーレス・アーキテクチャ』を採用するという大きなチャレンジをしました。当時、cloudpackとしても『サーバーレス・アーキテクチャ』の本格的な実践案件だったこともあり、cloudpack.mediaでも以下の2つの記事を掲載しました。

毎日放送様では『MBS動画イズム444』のリリース後、2017年9月に『MBS動画イズム』をサーバーレス・アーキテクチャでリプレースし、ライブ配信機能を追加開発して公開しました。『MBS動画イズム』では「無料見逃し配信」「ライブ配信」「ペーパービュー配信」の3つを提供しており、ユーザーはニーズに合わせて配信タイプを選ぶことが可能なサービスになっています。

株式会社毎日放送の濱口伸氏と中川貴博氏

今回は、技術や運用についてを株式会社毎日放送 経営戦略室メディア戦略部の濱口伸氏に、ビジネス面についてをコンテンツビジネス部の中川貴博氏に、この1年間、サーバーレス・アーキテクチャを存分に使い倒したお二人にお訊ねしてみました。

サーバーレスなシステムの運用について

MBS動画イズム444をサーバーレス・アーキテクチャで運用して1年、成果としてどのように感じていますか?

サーバーレスだからと動かないとか、トラブルで止まるといった問題もなく、アクセスが増えても安定した運用を実現できた1年だったと思います。今までのシステムとは違い、すぐに対応出来ることや出来ないことなど特有のクセみたいな部分もありましたが、少しづつ慣れてきて、やりたいことに対して継続的に開発が行えているので、今はとても満足しています。

あとは、やはりベースとなる運用面でコスト削減ができたことが大きいですね。AWSのコンソールで確認するたびにビックリします(笑)。削減できた予算は番組の方に回すことができているので、放送局として理にかなった良いサイクルになっています。

『MBS動画イズム444』では、AWS LambdaをはじめとするAWSのフルマネージドサービスやkintoneなどのSaaSを活用したことで運用面で楽ができたと実感しています。例えばJPCERTからセキュリティアラートがあがったら、本来なら自分たちで対応しなければいけないところをサービス側で対応してもらえるので、ある意味、安心して任せっきりの運用が可能になりましたし、実際に運用負荷の削減もできました。ただ、セキュリティに対してはさまざまな考え方があるので、任せること自体が不正解だと言う人もいるとは思いますけどね(笑)

この1年間で起こった障害で例をあげると、『MBS動画イズム444』で利用しているkintoneのリブートが影響して30分程度、コンテンツの更新ができなくなったことがありました。外部サービスとの連携もあるので更新作業ができなくなるのは正直困りました。しかし、よくよく考えてみると、30分で復旧するのって凄いことですよね。自分たちで運用しているサーバーだったら30分以上かかるかもしれないし、すぐに復旧できなければ別の手段を考えなくてはいけなくなりますからね。なので、あえて不安な点を挙げるならば、自分たちが復旧対応をしていないので、いつ復旧するのかが分からないという点ぐらいでしょうか。

株式会社毎日放送 経営戦略室メディア戦略部 濱口伸氏(1)

株式会社毎日放送 経営戦略室メディア戦略部 濱口伸氏

そもそもサーバーレス・アーキテクチャの導入を決めた背景は何だったのでしょう?

2016年夏にMBS社内で『MBS動画イズム444』を2016年中に開始したいという話しが出てきて、「そんな短期間でスタートできるのか?」といった心配が最初にありました。納期の都合もありましたが”AWSの利用”が前提で複数の会社に提案をお願いしたのですが、アイレットさんの提案はどこよりもAWSアイコンがたくさん並んだ構成図を持ってきて説明してくれたのです。時期を同じくしてAWSの講演を聞く機会があって、「サーバーレス・アーキテクチャはこうするんだ!」という話を聞いたあとに、アイレットの提案をみたらこれからの新しい常識はこれだと感じたんです。失敗した時のリスクを考えたらすぐ止められるというのも頭の隅にはありましたが、ゼロからシステムを作れる機会もそうないですし、新しいことにチャレンジしたいという考えもあって、サーバーレス・アーキテクチャの採用に踏み切りました。

株式会社毎日放送 経営戦略室メディア戦略部 濱口伸氏(2)

世の中がクラウドファーストでシステムを考えるようになってきていますし、実際に放送局が扱うような高ビットレートの動画をクラウドでも扱える流れができあがってきています。そうなれば、インフラにクラウドを使うのはごく普通のことです。今年『MBS動画イズム』をクラウド上で動かせているのは、その足がかりとして1年前から『MBS動画イズム444』をサーバーレスを基礎にして開発・運用できてきたことは役立っています。

サーバーレス・アーキテクチャを採用してよかった点を教えてください

前述のとおり、システム復旧を含む運用面でメリットのある仕組みだと思っています。もちろんコストやセキュリティでもメリットはありますが、仮にシステム障害が起こった時に対応する人が必ずいるというのも心強いです。先程のkintoneの話しではないですけどしばらく待っていれば復旧される仕組みであることは大切なことだと考えています。自分たちでフェイルオーバーの仕組みを作っておいても、ちゃんと動かないこともありますしね(笑)。もちろん大きなお金が動くようなクリティカルなシステムであれば停止は許されないと思いますし、規模によって採用されるアーキテクチャは変わってくるはずです。ただ私たちの規模では、サーバーレス・アーキテクチャが最適だったと確信しています。今よりもさらに成長して大きくなった時には、そのときの最新アーキテクチャで改めて作り直せばいいですし、その時はもうサーバーレス・アーキテクチャですらないかもしれませんので。

『MBS動画イズム444』開始以降のビジネス面での変化

サーバーレス・アーキテクチャを採用してみて、当時からやろうとしていたことのギャップはありましたか?

株式会社毎日放送 コンテンツビジネス部 中川貴博氏(1)

株式会社毎日放送 コンテンツビジネス部 中川貴博氏

正直なところ、しっかりと計画を立ててマイルストーンを決めたいという思いはあったのですが、凄まじいスピードで事業環境が変わっていきますし、自分たちでも想像していないような話しがどんどんでてくるので、3ヶ月とか6ヶ月先のことを決めること自体が難しい状況でした。

MBSは配信業者(メディア)ではないので、テレビと動画配信の距離感をMBSの意思だけでは決められませんし、1クールごとにキー局の動きやローカル局の状況なども温度感が変わります。変化を把握して、自分たちがどう動くべきかを判断をしてきたという点では、大きなギャップはありませんでした。

変化に対応するという点で、新機能の開発は続ける必要がありました。アイレットさんには、私たちと同じスピードで、開発にご協力いただけていることはとても満足しています。アイレットさんとの開発は、ある程度の方向性だけを決めておいて、作りこむ過程でそのとき最も優れた要素を詰め込むといったやり方なのですが、それが良い結果に繋がっていると感じています。でも普通なら、こんな開発の仕方は他社ではできませんよね(笑)。

そういえば、2017年9月頃、ある金曜日の夜中にチャットしていたことを思い出しました。そのとき『歌ネタ王決定戦2017』のライブ配信ができたらいいね、と話しをしていたのです。再生専用のオリジナル番組を作って広告を入れて配信しよう!って。『MBS動画イズム444』をリリースした1年前には想像もできなかった。

実際のところ社内でもアクセス数や視聴数だけでは計れない期待感が生まれているようで、考えている企画コンテンツを『MBS動画イズム』で配信したいと相談されるまでに成長できました。「MBS動画イズムでやったら楽しいよね?」など期待されるのは本当に嬉しいです。

それにアイレットさんと開発を進めてから、他局が『MBS動画イズム』をよく観察しているようです。「MBSがやってる仕組みをウチのにも入れてくれ」とか言われるような、トップランナーに近づいている感じがしています。

株式会社毎日放送 コンテンツビジネス部 中川貴博氏(2)

今回の取り組みが評価されてAWS re:Invent 2017で毎日放送のコーポレートロゴがスライドに登場したことも嬉しかったのですが、実は濱口が率いるチームが、なんと『局長賞』を貰えることになったんですよ!先進的なことに取り組んでいると(濱口は違う部門ですが)ITビジネス部が脚光を浴びて社内でも評判が高まっています。

株式会社毎日放送のMBS動画イズムチームメンバー

株式会社毎日放送のMBS動画イズムチームメンバー

毎日放送の社内ではなく、外部の放送系デジタル族と言われる人にとっても、MBS動画イズムがサーバーレス・アーキテクチャで動いているということを含めて、インパクトが大きかったのではないかと想像しています。MBSは近畿広域の放送事業者ですが、『MBS動画イズム』なら、東京を含めた日本全国からの視聴という新たなマーケットが狙えます。大胆なことを言えば、ジオコードを外して世界を相手にできる喜びをさらに大きくしていきたいと思っています。現時点ではもちろん完成形ではありませんので、1年後にはもっと素晴らしいサービスが提供できているかもしれません。

今後の展望を教えていただけますか?

『MBS動画イズム444』についても、年度末に向けて『MBS動画イズム』内に統合するために動いています。MBSが提供するインターネット向けの動画ブランドとして『MBS動画イズム』で4つの配信サービスを提供可能にして、ユーザーの集客と回遊してもらえるようなコンテンツの作り込みなどを今年度中に実施する予定です。ここまでは最低限実施することとして考えていて、今までに描いた構想のうち2段階目まで到達することになります。3段目は教えられませんので、楽しみに待っていてください!

取材後記

サーバーレス・アーキテクチャを採用した『MBS動画イズム444』のリリース後、MBSのお二人にとって、この1年は激動の年だったことを知りました。早期に安定運用を実現できたこともありますが、無料も含めて複数の課金体系を持つ『MBS動画イズム』もサーバーレス・アーキテクチャでリプレイスするなど、継続的に開発をしながら、社内からも認められる1つの配信チャネルに育て上げられました。チームのメンバーが同じ方向をみて、意思疎通が図れているからこそ実現できたのでしょう。

MBS動画イズムチームメンバーがいただいた表彰状

また動画イズムチームが『局長賞』を受賞後、開発に携わっているcloudpack大阪のサーバーレスチームに対しても表彰状のコピーをお送りいただきました。普通であれば発注者と受注者の関係でしかありませんが、1つのプロジェクトを一緒に盛り上げていくチームの一員として考えていただいていること、この関係性こそがビジネスを加速させるパワーの源なのかもしれないと感じました。

今回、cloudpackでは『MBS動画イズム』のサーバーレス・アーキテクチャ化、ライブ配信機能の追加、『MBS動画イズム444』と共通で利用できる動画配信プラットフォームのインフラ構築とシステム開発のお手伝いをさせていただきました。アーキテクチャなど事例の詳細は、それぞれインフラ事例開発事例にてご覧ください。