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2017.12.11 MON

基幹システムのAWS全面移行を実現したバンダイナムコグループのビフォ→アフター

増田 隆一

WRITTEN BY 増田 隆一

創業以来、「世界中で最も期待されるエンターテインメント企業グループ」をビジョンに掲げ、商品・サービスを通じ「夢・遊び・感動」を世界中の人々に提供し続けるバンダイナムコグループ。

遊び心にあふれた魅力ある商品・サービスを次々と生み出していくためには、その中で働くグループ社員が楽しく、そして効率よく働ける環境が欠かせませんが、すべてのグループ企業に対して快適な環境を提供するべく、同グループの管理業務を一元的に担っているのがバンダイナムコビジネスアークです。

バンダイナムコグループの事業基盤を支えるプロフェッショナル集団として、人材発掘/活用や財務戦略の立案、連結/単体決算の実施、そしてグループ企業の事業支援と業務効率改善を実現するIT戦略の立案やシステム開発/保守といった業務を通し、グループ全体にさまざなまシェアードサービスを提供しています。

今回、cloudpackはバンダイナムコビジネスアーク 情報システム部 ITインフラセクションに所属するお二人 – デピュティゼネラルマネージャー 森田繁様と、ITインフラ・システム管理チーム マネージャー 長沼正人様にお話を伺いました。

2016年10月、バンダイナムコグループは同社の基幹システムをオンプレミスからAWSクラウドへと全面移行するプロジェクトを開始し、2017年8月からシステムの本番稼働を開始しています。AWSクラウドへの基幹システム移行はここ数年、グローバルでも劇的に増えていますが、国内エンタープライズ企業の事例、それも今回のような全面移行のケースはさほど多くは公開されていません。

日本を代表するエンターテインメント企業はなぜAWSクラウド全面移行へと舵を切ったのでしょうか。本番稼働を無事に終えたお二人に、国内企業にとっても貴重なユースケースである同社の導入事例をあらためて振り返っていただきました。

オンプレミスと同じ環境をクラウドへ移行、できるのはAWSだけだった

まず、クラウドへの全面移行を検討したきっかけについてお話しいただけますか。


長沼: 基幹システムのクラウド移行そのものに関してはそれほど議論になりませんでした。むしろハードウェアベンダーにさまざまな条件を握られてしまうオンプレミスよりも、今の時代であれば、インフラをクラウドに寄せておくほうが自分たちの裁量の範囲が大きくなります。我々はインフラに関してはできる限り自分たち自身で手をかけていく方針なので、基幹システムのクラウド移行はほぼ既定路線でした。


バンダイナムコグループのビジネスを支える基幹システムは、バンダイナムコ自身で運用していくという、御社のビジョンにもつながりますね。


森田: 自分たちでインフラの面倒を見ずにすべてアウトソースするというのも有効な手段かもしれません。しかし我々は情報システム部門として『任せてしまうインフラ』にはしたくないという思いがありました。我々にとってクラウドの最大のメリットは柔軟性です。それはつまり、自分たち自身で選択できる部分が大きいということでもあります。


たしかに5年前、10年前と異なり、現在ではクラウド、特にAWSクラウドのスケーラビリティやパフォーマンス、セキュリティを疑う声はほとんど聞かなくなりました。むしろオンプレミスよりもビジネスに則した柔軟な構成を取りやすいことから、ハードウェアの更改にあわせてAWSに基幹システムを移行する企業は増え続けています。ですが、今回のバンダイナムコグループのケースのように、一度にすべての基幹システムを移行するケースはまだそれほど多くないかと思われます。全面移行という選択をされた理由について教えてください。


長沼: 最初にクラウドへの移行を検討したのは2015年11月ごろですね。全面移行に踏み切った理由はいくつかありますが、最も大きなものは段階的な移行にした場合の沖縄のディザスタリカバリサイトの扱いに悩んでいたからです。DR機能を担保しながら段階的に移行した場合、移行中に災害や障害が発生したときの対応が非常に難しくなります。そのリスクを考えると、ある程度大きなプロジェクトになったとしても一気に全面移行したほうが得策だと判断しました。


森田: 全面移行を決めたもうひとつの大きなきっかけは、データセンターの運用負荷増大に伴う無駄な回線やコストですね。ローコストで効率的にグループ全体の業務を支援するためにも、増え続ける無駄な部分をまとめて整理したかったということもあります。


なるほど。バンダイナムコグループ全体の基幹システムのクラウドへの全面移行となると、相当な規模だったかと存じますが、その移行先としてAWSクラウドを選ばれた理由をお聞かせください。もっともこのクラスの移行を引き受けられるのは、現実的に考えてAWS以外の選択肢はほとんどないような気もしますが…。


長沼: もちろん世界最大のクラウド事業者であるAWSのことは常に頭にありましたが、ほかのクラウドについても当然ながら検討しました。検討開始が2015年11月で、間にコンサルタント会社に入ってもらい、2016年5月くらいまで約半年かけて検討した結果、AWSクラウドに移行することを正式に決定しました。

やはりエンタープライズにおけるAWSの実績は圧倒的でしたが、我々にとって最も重要だったのは「短期間で、いまある環境を安全・確実にクラウドに移す」という点でした。オンプレミス(VMware)と同じ構成のシステムを、そのままクラウドに移行する。これが可能なベンダーは最終的にはAWSクラウドだけでしたね。


今回、移行のご支援をcloudpackも担当させていただきましたが、全面移行プロジェクトのパートナーとして当社を選ばれた理由についてもぜひお聞かせください。


森田: RFIの段階(2016年5月)でAWSで進めることは決定していたのですが、その後、RFP工程にて移行作業について4社から提案をいただきました。今回のプロジェクトはAWS担当とVMware担当の2社を中心にしたマルチベンダー体制で進めることにしており、cloudpackにはAWS担当としてご支援いただきました。

もともとcloudpackとは、バンダイナムコグループでのおつきあいがあり、ゲーム開発のサーバー構築や分析環境の構築などで技術的なご支援をいただいていたということもありますが、やはりAWSに関する圧倒的な知見と実績を評価しました。そしてこちらの疑問に対する回答が正確で速い。担当者全員がAWSに関するスキルが豊富であることを実感しました。だからこそなのかもしれませんが、提案内容が非常にシンプルだった点も好感を持ちました。問題から逃げずに、我々と一緒に解決しとうとする姿勢にも非常に救われましたね。

先ほども申し上げましたが、今回のプロジェクトはオンプレミスから極力、カタチを変えないでクラウドに持っていくことが短期間移行の最大のポイントになります。したがって複雑なプロセスを組み合わせたり、独自ツールに頼ったりするのではなく、ごくシンプルな方法で移行を実現する内容だったことも決め手のひとつとなりました。

全面移行プロジェクトのヤマ場は本番稼働を控えた2回のリハーサル

ベンダーの選定を終え、2016年10月からいよいよ移行プロジェクトが開始したわけですが、本番稼働までのスケジュールはかなりきっちり決められていたようですね。


長沼: そうですね。目標としていたのは2017年の夏休み期間中に本番移行を完了していることでした。全体的にスピード感ある移行が求められたプロジェクトだったと言えますね。


オンプレミスのVMware環境とほぼ同じ環境をAWSクラウド上に構築すると言われていましたが、具体的にはAWSのどのサービスを使ってどういう構成を取られたのでしょうか。


長沼: 基本的な構成としては、メイン環境を東京リージョンに、ディザスタリカバリ環境をオレゴンリージョンに構築しました。メイン環境ではVPC内にERPシステム、分析システムなど業務ごとに50ほどのAmazon EC2インスタンスを立てて、AWS Direct Connectでもってデータセンターと連携させています。また、メイン環境の日々のスナップショットをAMIコピーとしてオレゴンのディザスタリカバリ環境に送信しています。

そのほかにもAWS CloudWatch(ネットワークモニタリング)やAmazon Route 53(ドメインネームシステム)、AWS Lambda(サーバーレス)などを利用していますが、クラウドの利用形態としてはごくシンプルで標準的な構成だと思っています。

移行時は東京リージョンに本番環境50台、開発検証環境に60台のサーバー(インスタンス)を立てました。オレゴンリージョンで常時稼働しているのは、Active Directory周りのサーバーが十数台だけですね。東京とオレゴンあわせて130台ほどのインスタンスを稼働させています。オンプレミス時と比較すると、ディザスタリカバリサイトの維持費は極小化できています。


移行プロジェクトで苦労した点はどのあたりでしょうか。


森田: AWS上に基盤を構築するまではあっという間でしたね。メインの基盤構築は2016年12月までに完了しており、ディザスタリカバリサイトも2017年2月にはほぼ構築が終わっていました。大変だったのはやはり移行したアプリケーションの動作検証やディザスタリカバリのテスト/訓練、そして本番環境への移行でしょうか。とくに本稼働に備えては、何度も何度もテストやリハーサルを重ねました。


長沼: VMwareからAWSへの移行もVM Import/Exportを使うことで割とスムーズに進みました。懸念だったのはAWSクラウドへのエクスポート後にまったく動かないアプリケーションがあるかもしれないことで、これらを考慮して、移行のための自動化スクリプトを作成し、エクスポート後にミドルウェアやアプリケーションを設定する手間を省いています。アプリケーションの動作検証は2017年4月までには終わっていました。


2017年のゴールデンウィークまでには、AWS基盤もVMware環境の移行およびアプリケーションの検証もほぼ完了していたと。そして5月から本番環境への移行プロジェクトがスタートしたわけですね。


森田: 8月の本番移行完了までにリハーサルを2回やっています。1回目は6月に行い、その結果をもとに移行手順を修正し、本番とほぼ同じ環境で2回目のリハーサルを7月に実施しました。夏休み中にどうしても終わらせるという目標があったので、かなり切迫感はありましたね(笑) 本稼働フェーズでは並行してディザスタリカバリのテスト/訓練も行いました。

いますぐサーバーを1台ください! AWS導入で変わったこと変わらなかったこと

お話を伺っていると本当に丁寧に、それでいてスピーディに移行プロジェクトを進めてきた印象があるのですが、本番移行が完了しての感想をお聞かせください。


長沼: 移行が完了したときよりも、9月に入ってからのほうが実感がわいてきましたね。銀行の入出金が確認できたり、月次の決算も問題なく終了したと聞いて「ああ、ちゃんと動いているんだ」と本当にホッとしました(笑)


業務ユーザーの方からは何か言われたりしましたか。


長沼: 移行にあたって、業務部門に対しては「ディザスタリカバリの環境が変わります」という視点で説明を行っていました。それにともない、ホスト名は変わらずにIPアドレスだけ変わることを伝えてありましたが、AWS基盤に変わることへの意見は特になかったですね。移行後も何か問題があると言われたことはありません。


森田: 業務ユーザーはたぶん、自分たちが使っているインフラがAWSであるという実感はないかもしれませんね。パフォーマンスや機能などの面でクレームがきたこともありません。逆に、業務ユーザーが変化を感じていないということは、当初の『オンプレミス環境をそのままクラウドにもっていく』という目標が達成できた証拠だと思います。


長沼: ただ、AWSに移行したことで何も社内に変化がないかというと、そういうわけでもなくて、少なくとも情報システム部門の人間の意識は確実に変わってきています。

例えば「サーバーを1台、すぐに欲しいんだけど」と言ってくるアプリケーション開発者が増えてきたりして、以前だったらそんな無茶は通るはずもなかったんですが、いまはインスタンスをひとつ立ち上げるだけなので本当に簡単です。インフラがAWSに変わったことで、彼らの意識の中にも「いままでできなかったことができるようになった」という変化が起こっているのではないかと。


森田: 我々インフラチームも、今までは各部門への調達後に余ったサーバーを自分たちの勉強用に使っていたりしたのですが、AWSならそうした用途のインスタンスも簡単に立てられます。そういう意味ではエンジニアの感覚はずいぶん変わってきていますね。クラウド、とくにAWSを知らないのはマズイ、という認識がエンジニアの間で拡がってきていると感じます。AWSの勉強をしようと積極的に動くエンジニアが増えてきました。

あとは業務ユーザーに対してもシェアードサービスのコスト説明がしやすくなった点も変化と言えるかもしれません。コストが透明で明朗であることもAWSの大きな魅力のひとつだと実感します。


先ほど、当初からの『オンプレミスをそのままAWSクラウドに移行する』という目的は達成できたと言われましたが、今後はどのようにAWSを活用していきたいと思っていますか。


長沼: 今回は基幹システムの全面移行というプロジェクトだったので、EC2をメインにした基盤構築にこだわりましたが、今後はAmazon RDSなどマネージドサービスの運用も検討していきたいと考えています。ただし、最初にも申し上げたとおり、我々は自分たちのインフラは自分たちで持つ、ベンダーに任せっきりにしない、という方針を掲げています。実際にAWSを運用してみて、思った以上に自由度が高いことはわかったので、マネージドサービスを組み合わせるにしても、自分たちでコントロールできることを前提に検討していきたいですね。


最後にあらためて、AWSについての感想をお聞かせください。また、移行を成功させるための秘訣も総括していただけますか。


長沼: 「もう1年早く移行してもよかったかな」というのが正直なところです。やはりエンタープライズをまるっと面倒見られるクラウドはAWS以外にないんじゃないでしょうか。私のところには他のベンダーも営業に来られることがあるんですが「AWSと同じだけのことができるようになってから来てください。話はそれから」というと、もう来なくなってしまう(笑) それくらい圧倒的に差があると感じます。

もしこれからAWSへの移行を検討しているという企業があるなら、迷っていないでさっさとトレーニングを受けたりするとか、すぐ行動に移すことをお勧めします。迷っている時間は本当に無駄ですよ。


森田: AWSクラウドへの移行を成功させる最大のポイントは、できるだけシンプルを極めることかと思います。ツールに頼るよりも、仕組みを作ることに時間をかけるほうが、あとの作業が楽になるはずです。仕組みというのは『流す順番』と言ってもいいかもしれないですね。最初に手順をきっちり作り込む、可能な限り自動化する、シンプルな方向で手順を進める、そしてAWSに知見があるパートナーと組む。これらをクリアすればAWSクラウドへの移行は、たとえVMware環境からの全面移行でも大きな問題なく進めることができると思います。


無事に基幹システムのクラウド移行が済んだところで、これからがクラウド活用の第2フェーズですね。バンダイナムコグループがクラウドでどう変化していくのか、とても楽しみです。今日は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

『migrationpack』によるAWS移行実践ホワイトペーパー

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増田 隆一

増田 隆一

2015年にアイレット入社。cloudpackのマーケティングコミュニケーション担当 兼 採用マーケティング 兼 cloudpack.media編集長。ネコを愛する泡盛マイスター。虎ノ門界隈の飲食店制覇という壮大な野望を遂行中。